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あらゆる物事をM視点で語るブログ

日々妄想

エチケット袋

彼女はSM倶楽部の女王様という仕事が好きになれなかった。
「もともとこの仕事を選んだのは生活のためですからね。」
勿論、サディストでもなかったし、マゾヒストの男達に愛着を持つ事もなかった。
「クラブに来る方々はいい人達ばかりでした。不快な思いをしたこともほとんどありません。」
それでも、マゾヒストの方と同じ時間を過ごすのは苦痛だったという。
「自分の中にその手の性癖が全くなかったからでしょうね。私にはどうしても、マゾヒズムという性癖が理解できなかったのです。何故鞭打たれて悦ぶのか、どうして土下座してアソコを大きくさせるのか、わからないことだらけでした。無知は偏見を生むといいますけど、私にはM男が不気味で仕方ありませんでしたね。」
そういったストレスはすぐに肉体に現れた。
抜け毛や肌荒れで、10歳は年老いて見える。貧血気味で胃も痛い。
「もう辞めようと考えていました。」
そんな時に来店したのが、AというM男だった。Aは嘔吐プレイを希望して彼女を指名した。
「お断りする事も頭をよぎりました。今の体調じゃ嘔吐プレイなんてとても対応できない、そう思ったんです。嘔吐プレイってすごく体力を使いますから。」
指名を受けたのはSMクラブを辞めてからの生活が頭をよぎったからだった。
「でもすぐに後悔しましたね。待ち合わせのホテルに向かうまでの間、込み上げてくる不安を押しとどめるのに必死でした。」

恵比寿様のような丸々と太った男が迎えてくれた。第一印象は悪いものではなかったが、この男もマゾなのかと思うと心がざわついた。
「嘔吐プレイをご希望と聞いたけど。」
精一杯虚勢を張って女王様っぽく声音をつくった。
「ええ。私をエチケット袋だと思って、遠慮なく吐いちゃって下さい。」
「エチケット袋?」
「エチケット袋、ご存じないですか?バスや飛行機なんかに備え付けてある、気持ち悪くなったらそこに吐きましょうって袋ですね。エチケット袋、いい名前ですよね。嘔吐物はそこに収納するのがエチケットなのです。逆に言えば、そこに嘔吐しさえすれば礼儀正しいとされるわけです。嘔吐の『嘔』という字の右側部分を思い出してください。大きく開けた口から、今にも『品』が飛び出そうとしているように思えませんか?そう、嘔吐とは品を吐き出す行為なのです。そして、品を落として下品になる。…エチケット袋はその品を受け止めるのです。魔法の袋ですよね。」
それから、男はまるでプロポーズをするかのように真剣な表情になって、言った。
「あなたの品は私が受け止めます。あなたの品は私が守ります。ですから、安心して心置きなく吐いてください。」

「今、改めて考えてみると何言ってんだって話なんですけど。でも、当時の私はその言葉で肩の力が抜けたようになったんですよね。別に無理しないでも、この目の前のマゾに頼っちゃってもいいんだなって考えられるようになったというか。そう、何だかんだ言って彼らも男なんですよね。…というわけで、遠慮なく吐かせて頂きました。今までの怨念みたいなものも込められてましたからね。大変だったんじゃないかな。勿論、全部受け止めさせましたけどね。あいつは私のエチケット袋ですから。」

彼女は今もSMクラブの女王様という仕事を続けている。
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