弟とその彼女
高校生の時に彼女ができた。
…弟に。
初めての恋人だったと思う。
ある時、その弟と彼女が子供の頃のアルバムを見て盛り上がっていた。
「どれが俺かわかる?」「○○君、坊主だったの?」
そういった微笑ましい会話が私の部屋まで漏れ聞こえてくる。
30分か1時間位経ってからだろうか。気が付くと2人の会話は小さく低くなっていった。それは、幼い頃に襖越しに聞いた両親の声のように密やかに私の耳に届き、消えていった。
沈黙。
それから、わずかに衣服が擦れる音。
また、沈黙。長い沈黙。
そして、再び小さく低い声で交わされる会話。
会話の内容まではわからなかった。或いは、私の存在を意識していたのかもしれない。それでも、私は一言も聞き漏らすまいと神経を集中させていた。
きっと色々知りたかったのだと思う。
弟と彼女が部屋を出て、しばらくしてから弟の部屋に入った。
アルバムが乱雑に置き放されているのとは対照的にベッドは綺麗に整えられていた。
全体が視界に入る位置に正座してベッドを見た。いや、ベッドを見上げた。
想像する。
弟と彼女がした事を。冴えない私がしていない事を。マゾの私が出来ない事を。もしかしたら、一生縁がないのかもしれない事を。聖なる行為を。
その瞬間、目の眩むような恍惚が身体を駆け巡った。
私は急いで自分の部屋に戻って、射精をした。
それから、ことあるごとに弟の部屋のベッドを正座して見上げた。
あの頃の私は弟とその彼女を崇拝していたのだと思う。
さらに、数年後。私にも彼女が出来た。部屋に呼んで、アルバムを見せた。弟の彼女のように振る舞ってくれるのを期待していたのだと思う。セックスを恐れていた私の心の拠り所はベッドを見上げて想像した、弟と彼女だったのだ。
そして、弟と彼女の行為をなぞるようにしてセックスをした。23才だった。結果は散々。それでも、それから何度もセックスをした。その度に、弟と彼女に対して劣等感を覚えた。高校生の彼女達に出来たことが自分にはできない、それが快感だったのだと思う。
あの頃の私にとって、弟とその彼女は憧れの存在だったのだろう。
そして、現在。弟とその彼女は結婚して、3人の子供にも恵まれた。仲良く幸せに暮らしている。
私の方もいつの間にか、彼らに対して崇拝心も憧れも劣等感も抱かなくなってしまった。あるのは人間としての尊敬のようなものだろうか。
まあ、頭が上がらない事には変わらないのだけれど。
…弟に。
初めての恋人だったと思う。
ある時、その弟と彼女が子供の頃のアルバムを見て盛り上がっていた。
「どれが俺かわかる?」「○○君、坊主だったの?」
そういった微笑ましい会話が私の部屋まで漏れ聞こえてくる。
30分か1時間位経ってからだろうか。気が付くと2人の会話は小さく低くなっていった。それは、幼い頃に襖越しに聞いた両親の声のように密やかに私の耳に届き、消えていった。
沈黙。
それから、わずかに衣服が擦れる音。
また、沈黙。長い沈黙。
そして、再び小さく低い声で交わされる会話。
会話の内容まではわからなかった。或いは、私の存在を意識していたのかもしれない。それでも、私は一言も聞き漏らすまいと神経を集中させていた。
きっと色々知りたかったのだと思う。
弟と彼女が部屋を出て、しばらくしてから弟の部屋に入った。
アルバムが乱雑に置き放されているのとは対照的にベッドは綺麗に整えられていた。
全体が視界に入る位置に正座してベッドを見た。いや、ベッドを見上げた。
想像する。
弟と彼女がした事を。冴えない私がしていない事を。マゾの私が出来ない事を。もしかしたら、一生縁がないのかもしれない事を。聖なる行為を。
その瞬間、目の眩むような恍惚が身体を駆け巡った。
私は急いで自分の部屋に戻って、射精をした。
それから、ことあるごとに弟の部屋のベッドを正座して見上げた。
あの頃の私は弟とその彼女を崇拝していたのだと思う。
さらに、数年後。私にも彼女が出来た。部屋に呼んで、アルバムを見せた。弟の彼女のように振る舞ってくれるのを期待していたのだと思う。セックスを恐れていた私の心の拠り所はベッドを見上げて想像した、弟と彼女だったのだ。
そして、弟と彼女の行為をなぞるようにしてセックスをした。23才だった。結果は散々。それでも、それから何度もセックスをした。その度に、弟と彼女に対して劣等感を覚えた。高校生の彼女達に出来たことが自分にはできない、それが快感だったのだと思う。
あの頃の私にとって、弟とその彼女は憧れの存在だったのだろう。
そして、現在。弟とその彼女は結婚して、3人の子供にも恵まれた。仲良く幸せに暮らしている。
私の方もいつの間にか、彼らに対して崇拝心も憧れも劣等感も抱かなくなってしまった。あるのは人間としての尊敬のようなものだろうか。
まあ、頭が上がらない事には変わらないのだけれど。